「子どもをのびのび育てる」
NPO法人 療育教室 楽しい広場 代表 伊澤崇弥
私はNPO法人 療育教室 楽しい広場の代表をしております、伊澤崇弥と申します。平成19年(2009年)4月より、NPO法人 療育教室 楽しい広場を設立し、主に幼児期の子どもさんの早期療育に関する発達相談や言葉の指導、あるいはセミナーの開催などの事業を行っております。
療育教室 楽しい広場での早期療育の基本的な考え方や方法論を「発達療育」と呼んでいます。その「発達療育」では、言葉の遅れなどの発達の遅れやかんしゃく・他動などの問題行動などの子どもさんの発達の不安に対し、個々の子どもさんの発達の実態(発達段階とそれまでの生活経験の仕方)を把握し、それを基に発達の不安の原因が「本来必要であった何らかの生活経験が不十分であったのではないか?」という観点から原因を考え、改善の方法を明らかにして療育を行っています。
その「発達療育」の考え方を基にして、この北海道小鳩会の会報で、子どもさんの発達および発達の不安の原因や改善の方法などについて、書き記して参りたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
さて今回は『言葉が遅れる原因の一つ「子どもをのびのび育てる」』がテーマです。
子どもさんが生まれ、乳児からハイハイをし、座位がとれ、立つことができ、歩き始めると「幼児期」に入っていきます。やはり、子どもさんを見るとかわいいし、これから元気に明るくのびのびと育ってほしいと、親御さんとしては願うでしょう。そう願うのはもちろん悪いことではありません。ただ、そのときに陥りやすい問題点があります。
それは、子どもさんが「のびのびと明るい子でいてほしい」と願うあまり「のびのび育てる」ことを「子どもさんの要求や意図に沿って育てる」と考えてしまう場合です。
例えば、子どもさんが毎日気持ちよく、元気に、喜びがたくさんあるように過ごしてほしい、あるいはいつも子どもさんの笑顔を見ていたいと親御さんが願い、「子どもが嫌がることをしないように育てよう」と考えるかもしれません。しかし、子どもさんが成長し、生活の範囲が広くなると、子どもさんの要求とお母さんの都合が一致しない場面がたくさん出てきます。
具体的に考えてみます。公園で遊んでいて、お母さんは「もう時間だから帰らなくてはならない」と子どもさんに伝え、でも子どもさんは「まだ遊びたい」というとき、お母さんの考えと子どもさんの要求が不一致になります。これは特別なことではなく、どの子どもさんにも当てはまることです。ただ、もしここでお母さんが「子どもをのびのび育てよう」として、「子どもが嫌がることをしないようにする」と考えたら、子どもさんの事を最優先に考え、子どもさんが飽きるまでそのまま遊ばせるかもしれません。
あるいは、おうちでそろそろ夕食の準備をしなければならないときでも、子どもさんが「一緒に遊んで」と要求したとします。ここでも、お母さんが子どもさんの願いに寄り添おうとして、無理をしてでも夕食作りを止め、子どもさんが飽きるまで遊ぶ、と言うことがあるかもしれません。両方のケースとも、療育教室 楽しい広場の発達相談のケースで何例かありました。
こういう場合、通常「もうみんな帰ってくるからおうちに帰るよ」とか「今はご飯を作るからちょっと待ってね」とおかあさんに言われて、子どもさんが我慢をしたり、待ったりするようになっていきます。最初は遊びたいとだだをこねていた子どもさんも、何度も繰り返していくうちに、諦めていきます。
しかし、ここで子どもさんに不快な思いはさせたくないと考え、子どもさんに我慢をさせたり、待つという「自分を抑える経験」をさせず、自分の思い通りにさせることを続けていくと、3才くらいになると二つの発達の不安が出てくる可能性が高くなります。
一つは、「自分を抑える経験」をしていないので、前号で説明をいたしました「自分の行動をコントロールする力」である「自律性」が伸びず、かんしゃくや多動などの問題行動が現れやすくなります。
そしてもう一つは「言葉が遅い」ということです。なぜ、「言葉が遅くなるのか?」を考えてみますと、自分が嫌なことをしなくていいということは、毎日の生活の中で「自分をさえぎるもの」がなく、お母さんが自分を不快にさせないようにいろいろ先回りしてやってくれているので、そういう中では「しゃべる必要がない」ということになります。
療育教室 楽しい広場の発達療育では、お母さんを中心とした大人とのかかわりの中で、声や動作、しぐさ、視線、表情などの言葉以外のいろいろな手段を使って、自分の感情や思いや意図を「伝え合う」ことを積み重ね、その延長上に「言葉で伝える」つまり「しゃべる」と言うことが出来てくると考えています。
そう考えると、毎日の生活の中で「しゃべる必要がない」とすれば「伝え合う」という経験が極めて少ないのですから、当然、「言葉が遅れる」可能性が高い、ということになります。
このような「のびのび育てる」子育ての中で、発達の不安が出てきた場合は、お母さんが子どもさんと一緒に遊ぶ中で、あるいは着替えや食事などの一日の生活の中のそれぞれの場面で、「ちょっと待つ」「少し我慢する」あるいは「自分でできることは自分でする」という経験を増やしていくことが必要と考えます。
「しゃべること」に関して言えば、今までとは違い、嫌が上でも「言葉で伝える」場面が増えてきますから、その結果「しゃべる必要」が出てくると考えます。
|