子どもさんに対する対応について
NPO法人 療育教室 楽しい広場 代表 伊澤崇弥
1 「かんしゃくが激しい」とは
子育て論の中には、「子どもに寄り添った子育て」ですとか「子どもをほめる子育て」など、子どもを肯定的に見た子育て論もあり、実践されている方も多いかと思います。ここでいう「肯定的」とは、良い面をどんどん伸ばしていきたい、という意味です。しかし、こういう子育てをされる場合、親御さんが陥りやすい問題点があります。 子どもさんが毎日、にこにこ楽しそうに過ごしていくのは良いことですが、子どもさんたちが成長していく過程でどうしても気づかなければならないことがあります。それが「自分の思う通りにならないことがある」ということです。
例えば、自分はまだ遊びたいけれど、お母さんの用事でもうやめなければならない、あるいは、早くお出かけをしたいのにお母さんに「待って」と言われて待たなければならないなど、子どもさんが成長すると、どのお子さんにもお母さんとの意思の不一致という場面が出てきます。普通は、場面に応じて子どもさんが「自分を抑えて」我慢をして適応していくのですが、お母さんによっては、「自分の子どもに不快な思いをさせたくない」と考え、あえて子どもさんが我慢をしたり、自分を抑える場面を作らない、あるいは経験させないという場合があります。
療育教室 楽しい広場の発達療育では、この「自分を抑える」ということを子どもさんが身につけることを重視しています。そして、それが今回の「かんしゃくが激しい」のキーワードになります。
「かんしゃくが激しい」とは、自分の思う通りにならないとき、大きな声で泣き叫び、それが自分の要求が通るまで続くことです。それが高じると物を投げたり、相手を叩いたり、足で蹴飛ばしたりすることもあります。
子どもは3才から4才にかけて、「自分で自分の行動をコントロールする力」である「自律性」が急速に伸長してきます。(詳しくは「3 自律性」をご参照ください)「自律性」というのは、ただ我慢するのではなく、場面や状況に応じて自己主張したり自己抑制をしたり、バランスが取れているということです。かんしゃくが激しいというのは、3才以上の子どもさんの場合、この「自律性」が身についていないのではないかと考えます。特に「待つ」「我慢する」という「自分を抑える」経験が極端に少ないのではないかと考えられます。
かんしゃくが激しいということは、自分には「自分の思う通りにならないことはない」とタカをくくっていて、「あきらめる」という言葉が自分の辞書にはないのでしょうね。
2 改善の方法
基本的に、まず日常生活の中で「ちょっと待つ」「ちょっと我慢する」「後片付けをする」などという、「自分を抑える経験」を積み重ねることが必要です。食事やおやつの前に「30を数える」ということも、よくお母さん方にアドバイスしています。また「自分でできることは自分でする」という経験も、「自分の行動をコントロールする」という意味で必要になってきます。
それから、4才あるいは5才代でかんしゃくが激しい場合ですが、このくらいの年令になると子どもさんも賢くなり、一筋縄ではいかないことがあります。その場合は、子どもさんとの「バトル(闘い)に勝つ」ことが重要になってきます。この場合は、怒ったり、怒鳴ったり、手を上げたりするのではなく、「平然」としてください。もちろん「平然」を装うということです。「ダメなものはダメ」「できないものはできません」ということです。無視ではありません。ですからエネルギーを必要とします。なので「バトル」なのです。
目的は、子どもさんに「あきらめさせる」ということです。「人生には、自分の思う通りにならないことがあるんだ」ということを思い知る、ということです。あきらめがついたら、子どもさんたちはガラッと変わります。これまで、療育教室 楽しい広場に来られた子どもさんたちも、たくさん変わりました。後でお母さんから連絡をいただいた中で、お母さんと子どもさんのバトルが一番長かったのが2時間半、一番短かったのが3分でした。
3 自律性について
(1)自律性とは? 子どもは、3才・4才頃から、人とかかわっていく上でとても重要な「自分で自分の行動をコントロールする力」である「自律性」が急速に伸長していきます。この場合の「コントロール」とは、二つの側面を持っています。一つは「自己主張・自己実現」、もう一つは「自己抑制」です。
具体的には、実験研究(柏木恵子 1988年)から次のような内容が挙げられます。
<自己主張・自己実現> ・嫌なことは「イヤ」とはっきり言える。 ・入りたい遊びに自分から「入れて」と言える。 ・自分の意見や考えを自分から言える。
<自己抑制> ・「かわりばんこ」ができる。 ・「してはいけない」と言われたことはしない。 ・仲間と意見が違うとき、相手の意見を入れられる。 ・課された仕事をやり通す。
実験研究では、どちらの側面も3才~6才にかけて年令が上がるに伴い上昇しますが、自己抑制では特に上昇が著しかったという結果が出ています。
3才くらいになると、場面や状況に応じて行動を変えていく事ができるようになり、それを踏まえて、「自律性」とは、場面や状況に応じてこの二つのバランスを取ることができるようになる、と言えます。
(2)自律性が身についていない原因 3才~6才くらいの子どもさんで、自律性が身についていない、つまり「自分で行動をコントロールできない」子どもさんがいます。例えばかんしゃくが激しい、友だちにすぐ手が出る、友だちとトラブルが多いなどのような場合です。
そういう場合、それまでに「待つ」とか「我慢する」という自己抑制の経験が極端に少ない場合が考えられます。つまり、自己主張・自己実現と自己抑制のバランスを取りようにも、自己抑制の経験があまりにも少なすぎて、バランスのとりようがないということです。こういう場合は、「待つ」とか「我慢する」などの自己抑制の経験を積み重ねる事が必要です。ことに、自己抑制は誰でもそうですが子どもにとっても自分からやりたいことではありませんから、この場合は、親や大人が身につけさせていく必要があります。
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