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札幌分会 医療講演会から ダウン症候群の医療

2月18日行われた医療講演会での外木先生のお話を簡単にまとめて紹介します。


 講演会は午前は乳幼児、午後は小学生以上の子どもたちの医療と一日を通してお話していただきました。午前、午後ともにダウン症の歴史、解説からお話を始めて下さいました。先生が10年ほど前に小鳩会でお話して下さった時と比べると、現在は心臓手術技術などの医療面の進歩や社会環境が変わってきてダウン症を取り巻く環境はずいぶん変わってきているとのことです。

 ここではお話して下さった内容を項目ごとにまとめてみました。

平均余命
ダウン症の主な死亡原因
1歳まで 心臓病、消化器官の奇形、他の器官の重い奇形、肺炎など
4歳まで 肺炎、感染症、白血病など
思春期まで 白血病
20歳過ぎ 脳血管・糖尿病ほか成人病、多少老化が早い事による病など

 ダウン症(日本の)の平均余命は今のところ0歳で48.9歳、1歳で51.2歳でダウン症が若死にする病気であるということは誤りである。心臓病を治せるようになってきたことによって10歳までの生存率が上がってきている。



健康チェック


○新生児期

 先天性の命にかかわるような病気のある場合はダウン症云々ということではなく救命のための 治療を優先すべきと考える。全ての赤ちゃんは生後すぐに心臓病がないかどうか検診を受けたほうがよい。特にダウン症といわれたら必ず心臓の専門医に診てもらうこと。心臓に異常がないといわれても定期的なフォローアップをしていくことが大切。


○ダウン症の基本的なチェックリスト

 先天性の命にかかわるような病気のある場合はダウン症云々ということではなく救命のための治療を優先すべきと考える。全ての赤ちゃんは生後すぐに心臓病がないかどうか検診を受けたほうがよい。特にダウン症といわれたら必ず心臓の専門医に診てもらうこと。 心臓に異常がないといわれても定期的なフォローアップをしていくことが大切。

 初診 染色体検査、血液検査、甲状腺検査、TAM(6〜8ケ月までのDS児に比較的起こりやすい増殖性の血液疾患)肝臓、心雑音、けいれん、消化器異常、レントゲン検査、心エコー検査

発育、親子関係、情緒面などがうまくいっているかどうか親と相談しながら見守る

 1歳 眼科・耳鼻科の検査、虫歯チェック(心臓病がある場合(特に心室中隔欠損症など穴が開いている病気)は虫歯から入った菌によって心内膜炎を起こすおそれがある)

身体計測、診察などで発育、親子関係、情緒面などがうまくいっているかどうか親と相談しながら見守る

 3歳 首の骨(関節)の検査、肥満に対する指導。問題があれば定期的にフォローアップするプログラムを作る。

 学童期・思春期の検査
  視力・聴力検査、肥満に対する栄養指導、ストレスに対するカウンセリング、甲状腺の検査、知能・性格検査、尿酸値の検査、尿検査



合併症


 ダウン症の医療というのは合併症との戦いといえるが基本的スタンスとしては早期発見、早期治療。子どもが小さい時は自分で症状を訴えてくれないので親はどういう時にどういう問題が出てくるかの知識を持つことが必要。

 ダウン症と診断された場合どんな体の病気を心配すべきかというと先天性心疾患、消化器疾患( 十二指腸閉鎖、鎖肛など)

 これらはほとんど就学期までに克服されている。


○てんかん

 1歳までの罹患率は高く(点頭てんかんという形で現れることが多い。気になる動作があった時には医師に相談を)、その後思春期以降に頻度が多い。てんかんには脳波異常がつきものと思われがちであるが、脳波異常のあるなしで決めつけるのではなく、けいれんが起きたか起きないかが重要である。発作を起こさない人はてんかんではなく、脳波に異常がなくても発作を起こす人はてんかん。脳波検査を無意味だというのではなくそれにあまり振り回されないように。


○白血病

 ダウン症では急性白血病の発症頻度が比較的高い。症状は熱、活気がない、食欲が落ちる、特に脚のくるぶしから膝の間(下腿とよばれる部分)に紫色の出血斑がでてくる。このような症状のある時はできるだけ早く診断を受け、そうであれば直ちに治療を始めることが重要。白血病の定期検査は全く意味がないことではないがあまり早期発見の役には立たない。


○甲状腺機能低下症


 甲状腺からつくられる甲状腺ホルモンは人間の代謝活動を活発にする働きをする。このホルモンが足りなくなるのが甲状腺機能低下症。症状としては元気がなくなる、眠たくなる、体温低下、活気・やる気がなくなる、便秘など。逆に亢進症になるとイライラして落ち着きがなくなる、 食欲が増加するのにやせてくる。

 出生後に甲状腺機能低下症になる子がいるが現時点では新生児のスクーリニングの対象になっているので問題があった場合は基本的にはすぐ対応できるが、思春期以降に甲状腺機能低下症に悩まれる方が出てくるので、症状があればすぐ検査を受けてほしい。治療は甲状腺のホルモン薬を少し服用する。


○環軸椎不安定性

 頚椎の一番上は丸い環のようになっている環椎、2番目は歯突起という突起がある軸椎といい環椎と軸椎とでクルクル回る関節をつくっており、
歯突起は環椎横靱帯という靱帯で環椎の前側の骨に固定されている。
この靱帯が緩むと環椎が前にずれ後ろのスペースが狭くなって歯突起が後ろにある脊髄を圧迫してしまう。

 環軸椎の不安定さというのは前屈みになるとずれて脊髄が圧 迫されのけ反ると比較的解消される。
自分の子どもはどの位ゆるいのか知っておく必要がある。そのために3歳前後に整形外科でレントゲン撮影検査を受け、さらに10歳位に再度検査を受けた方が良い。
ずれのある場合(不安定性が高いといわれた場合)は症状がなくても定期的に診察を受けること。

 脊髄を圧迫すると具体的な症状としては首が痛い、首を傾けたままになる、のけ反りかげんに なる、元気がない、さらに症状が進むと歩行障害、意識障害、けいれん、尿失禁、延髄まで圧迫がくると呼吸障害(これは直接命にかかわる)。

 不安定性がある場合、首をふいにぐっと前に傾 ける運動を避ける努力が必要。
とんぼ返り、トランポリン、マット運動の前転、走り高跳び、水泳(飛び込み時)、またころぶ時にも特に後ろへの転倒をなるべく避けるように注意が必要。 治療法は前駆症状が出てきたら頭がい骨を少し引っ張り上げるような治療法で楽になってくることがある。
それを越えてしまうと骨がずれないように鋼鉄製の固定器を入れる治療。


○眼科的屈折異常


 近視、遠視、斜視がDS児には非常に多い。本人があまり見えないと言ってくれないので定期 的に検査をして必要があれば眼鏡による矯正をすることが重要。

 弱視は屈折異常とは別の問題で物を見る力が弱くなってしまう。原因として考えられるのは白内障。学童期にはあまり見られない(進行が緩い)が成人期以降進行していくことが多く要注意。


○外反偏平足


 これが姿勢があまり良くないということに絡んでくるのかもしれない。


○円形脱毛症


 ストレスからくる場合が多い。普段から毛が抜けてこないか注意して見守る。


○歯に関して


 一般にDS児は歯の生えるのが遅いようだ。虫歯予防、また歯周病になりやすいようのなで予防の為にブラッシングなど口腔衛生に気をつけること。先天的に歯の数が足りないことも多い。反対咬合が多い。甘い物を過剰に与えないように。特に冬場唇のひび割れる人が多い。


○難聴

 耳の穴が狭い・細いことが多い、風邪にかかりやすいことが多く中耳炎を合併しやすい。その ために滲出性中耳炎に慢性的あるいは反復的して罹ってしまい、そのうちに聴こえが悪くなり伝音声難聴に進むようになることが多い。赤ちゃんの時から中耳炎には要注意で熱のある時、鼻水が続いている時小児科受診したら必ず耳を診てもらうこと。症状によってはチューブニングしたり補聴器を使用する。

 感音性難聴というのは耳の聴こえの中でも感じる部分(中耳の奥に内耳があり内耳の先は脳の神経)に問題がある場合の難聴で中耳炎とは関係ない。この感音性難聴の方もごく僅かですがいる。


○予防注射

 DS児は感染症に罹りやすいく、罹ると病気が重くなりやすい。実際に肺炎による死亡率が高い。 白血病の頻度が高いことからも、体の中の自己免疫に関する病気が起こりやすく、従って予防注射はDS児にとって大切なことである。予防に勝る治療はないので予防注射は事情が許す限りぜひ積極的に受けてもらいたい。インフルエンザの予防接種の受けてもらいたい。


○肥満

 DS児は肥満傾向にある子が多いが代謝異常によるものがある。また精神的なストレスから過食その結果ということもあるので、ダイエットがストレスにならないように楽しくダイエットするような工夫が必要。


○痛風

 DS児の男児に尿酸値の高い人が多い。尿酸値が高いと痛風、高じて腎不全を起こす。血液検査でわかるので調べておいた方がいい。尿酸値が高い場合にはプリン体を含む食物を食べないように食事制限が必要。


○ことばの問題

 一番頭を悩ます問題ですが、DS児の初めてのことばは2歳前後、二語文は3歳後半〜4歳と健常児に比べると遅くなっている。ことばの理解はわりと良いが表出言語がやや遅れる。DS児の言語発達の遅れは知的障害が起因となり、また発声・発語に問題がある。問題としては発音が不明瞭、きつ音傾向、ことばが極端に少ないなど。幼児期の発音障害の要因としては口の周りの筋肉の筋力不足(口輪筋、頬についている噛む筋肉、側頭筋が弱い)それらをいかに強くしていくかのヒントとして、小さい時はスプーン・カップを使って唇を開けたり閉めたりする運動を繰り返したりなどの唇や舌を上手く使う(噛む、飲む、息を吐いたり・吸ったり)運動をする。ただしストレスにならないように注意する。

 難聴の為に言語発達が遅れることもあるので耳の検査と治療を受けること。

 言語発達は個人差、その人が持っいる能力が様々違う、あるいは周囲の関わり方でも違ってく る。家庭での両親の親密な関わりはことばにとって大切なように思う。

 ことばを教えるのにマカトン法というのがある。ことばの理解を助ける為に一定の動作を使う ことによってことばを導いていく方法でそれを取り入れるのも一つの方法。

 DS児の苦手な発音は一致しているわけではないが、一般的に声のピッチが低い、イントネー ション・リズムがわるく平坦な喋り方が多い。上手に喋る為にことばを取り入れたリズム遊び、などゲーム的な要素を取り入れた練習方法なども良いと思うがこれもストレスにならないように注意が必要。


○思春期以降のDS児に比較的見られる異常行動

 DS児皆が異常行動をとるというのではない。異常行動をするDS児の多くに見られることとしては、過食傾向(食べまくり)、きつ音、爪かみ、じっとして動かない、身体ゆすり、偏食、自傷、おもらし等。またDS児が精神的なストレスによるサインとして出すものとして、自閉性(人と口をきかない。他人との接触を避ける)、情緒不安定、不眠、無気力、反抗的態度、怒りっぽい、イライラするなど。
上記の二つのタイプになるようです。このような問題点を解決 していくか、基本的にはDS児だけに限らず健常児でも同じようだと考える。

 社会に出るということは(学校、職場、作業所など)ある程度楽しいけれど一方で大変なスト レスになっていることは事実だと思う。
従って家庭でいかにお子さんをリラックスさせてあげる事ができるか、家庭で憩えないということは非常につらいと思う。子どもにサインが出た場合、 一番大切なのはDS児が持っている性格(一人ひとり違うと思うが)を両親が客観的に把握する努力が必要。ずっと育ててきてこういう性格と親は理解していると思うが、心理相談、知能相談を含めて児童相談所あるいは専門の施設で判定を受け、その時に親がどのように関わっていくかでどいう反応が引き出されてくるかも調べてもらう。親がよかれと思ってやっていることが家庭の中でストレスになっている事もあるので。

 例えば肥満に対する問題で学校で楽しく過ごしてきて家に帰ってきてダイエットが大変というとことでストレスになったりする。
子どもに対する客観的な評価ということを考えて欲しい。 それが一つのヒントかもしれない。

 もう一つは、ダウン症の人は実年齢より生活年齢が低く評価されることが多いので、周りの人達は評価に適した対応をすることも大切で、子どもが親に対する甘えなどを単純に突き放すようなことをすると子どもはストレスがたまる場合がある。
どこまで甘えさせて自立するように促していくかの匙加減が難しい。

 もう一つは、母親だけが矢面に立つことがないように、お父さんとの役割分担をする。 (母親→甘えさせる、父親→厳しく等)。情緒のバランスをとってやることが大切。

 DS児は明るく、おとなしく、社交的とよく言われるが本当にそうなのかと考える必要がある。小さい時はそれでもよいが学童期、社会に出てから皆がそうなのであろうか。例えば作業所で働くようになって作業が厳しい、よく叱られてしまう、余暇(リラックスする) の時間を上手く使えない、周りの目(人間関係)が非常にストレスになってくる。その為異常な行動として現れてきたり、元気なく見えたり、心理的に落ち込んでいるように見えたりとDS児のイメージとは違った状態に陥ることがあるようである。
DS児が本来持っている性格傾向が社会生活をすることによって逆にゆがめられてマイナスな影響をもろに受けてしまっている。
おとなしくて、素直ゆえにストレスを発散できず、その為に落ち込んでしまったり、異常行動が全面 に出てきてしまうしまうことが多いように思う。

 そうならない為に集団生活での環境作り、先生、指導される方々の人間関係、指導される方々の態度の改善要求をしていくことも必要。家庭、入所施設での余暇の利用上での周りからの援助の仕方でいかにリラックスさせてあげられるかということも大切。親が理解できないようなことが原因でストレスになっていることもありそれ見つけてやる。

 また集団生活の中では自分とは違った行動をする人、違った概念を持つ人がいる、ダウン症児は正義感が強いところがあるので全てを良いこと悪いことで判断することは必要ないことも教えたい。学校や施設であったことを素直にオープンに話せるような環境をつくる。
場合に よっては精神科医、サイコロジスト(心理士)の専門的なご意見を伺って解決することも必要と思われる。


○性について

 文献もとても少なくはっきり言ってまだよくわからない部分である。男性、女性とも性衝動が あまり強くないという意見があるがその情報が正しいかどうかわからない。ダウン症の女性が出産した例はあるが、具体的な要求がどうであるかはわからない。実際の子ども達の様子を教えて下さい。

(ここで会場からの親の発言)

 異性と仲良くする、触るということはあるがそれ以上はないように思う。

 テレビなどのセクシャル場面には目を逸らしてしまう。

 女の子の生理の手当ては重度の子でもスムースにできる。

 年齢に応じて羞恥心も出てくる。

 好きという気持ちはあるが体の面はわからない。


 スタンスとして性の問題もダウン症だからということで不必要に抑圧されるべきではないので はないかと思うが、そこまでの要求を本人が持っているかどうか。無理に本人を煽るようなことはすべきではない。
好きという気持ちがゆがんできてストーカーのような行動異常が現れてくるような時は問題と考え医師などに相談してほしい。


○最後に

 DS児の医療を受ける時は専門医の話を納得いくまでよく聞いて下さい。そして親からも希望を出して積極的に医療を受ける姿勢で医師と接することが大切。

 小児科医と密接な関係を作り、適切な時に適切な検査、療育、訓練を受けてほしい。

 DS児が幸せに生き、価値のある楽しい人生をおくってほしいと考えるが、人生をどのように おくるかは医療の面だけでなく、子ども達が社会とよりよい適応関係を持てるような社会的な生活支援の体制がなければならないが今の段階ではまだまだ不足している。
こういったものを地域社会などでの周りの皆さんの励ましの中親の力で進めていくことが大切だと思う。

(文責 藤田)



講演会は午前・就学前の子どもの医療中心に、午後・小学校〜成人の医療中心に神奈川県立子ども医療センターの黒木先生、埼玉県立小児医療センターの大橋先生の資料を参考にしたり、スライドを使用したりしてお話していただきました。
ここでは午前・午後のお話を簡単に項目別にまとめて載せてみました。
講演会の録音テープがありますのでご希望の方は藤田までお問合わせ下さい。

 外木先生は現在毎週火曜日・午前中、北大の小児科で診察されています。ダウン症の方は年齢に 関係なく相談・診察して下さるとのことです。
ただし、必ず予約をお願いいたします。

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