「こばと」235号


表紙の写真//会報「こばと」表紙写真のエピソードをご紹介

北見市 T かおりさん (幸輝さん(高校1年生))


~母よりのコメント~
北見支援学校高等部入学です
只今思春期絶好調〜母は更年期絶好調〜共にがんばりましょう〜

特集記事//会報「こばと」今号の特集記事

前号に引き続き、『ダウン症の生涯を通しての健康管理について』連載です。
今月号は外木先生の"青年期から成人期のメンタルヘルスにかかわる問題"についてです。

ダウン症の生涯を通しての健康管理について―21

天使病院小児科医師 外木秀文


V 青年期


パート4 ダウン症の最近の研究と診療動向


1 まずは新型コロナウイルス感染に関して


 2021年春,日本でも新型コロナウイルスに対するワクチン接種が始まりました.その際,ダウン症は基礎疾患と認定され優先接種の対象となりました.かかるとリスクがあると判断されたのです.私はそれまで,ダウン症のある人はそうでない人とリスクに変わりはないはずだと考え,飛沫感染と接触感染の基本的な対策を徹底して身に付けること,そのために周囲が適切に働きかけることを強調して診療を行っていました.そうして1年が過ぎようとした2020年の末頃でしょうか,イギリスの有名な医学誌Lancetに40歳以上のダウン症のある成人では明らかに死亡率が高いとの報告が出ました.欧米から似たような報告が2つ3つ出ましたが,私自身は「ちょっと待て,大騒ぎしないように」と思っていました.新型コロナウイルスにだけ弱いのではないのだろう.ダウン症のある人とそうでない人を比較するのもいいけれど,ダウン症のある人では,新型コロナウイルスも他の呼吸器感染症のどちらもリスクは一般集団に比べて高いのではないだろうか.あるいはダウン症のある40歳の人はそうじゃない40歳の人と対等に評価しえるのだろうか?同じ年齢層と比較するのはフェアじゃないという疑問がぬぐえなかったからです.40歳以上でリスクが高いのは事実とは思いますが,何倍も高いという報告には少し疑問を持ちました.もちろんワクチンは積極的に受けるようにすべきと思いますし,あらゆる予防手段を取るべきですが,この情報が十分配慮されずに「コロナはとても怖い」とだけ知らされると,不安になったり,パニックになったり心理的なトラブルが発生しやすくなることが心配でした.最近の研究では小児ではダウン症のあるなしにかかわらずリスクは低いとされています.デルタ株,オミクロン株と新たな変異株が出現するたびにわが国も多くの罹患者が,それも若い世代や小児の罹患者が増えてきています.「普通の風邪」に近づく過程と思います.若い世代はあまり不安に駆られる必要はないと思います.ただでさえマスクや手洗いやソーシャルディスタンスだの黙食だの,それに余計な外出はしないなどストレスがたまることばかりですから,気持ちの方は安心を保証してあげたいものです.


2 脳の研究:DYRK1Aについて


 昨年の夏,大阪大学の北畠先生たちのグループがダウン症の脳に影響を及ぼす重要な遺伝子と考えられていたDYRK1AとPIGPがグリア細胞の一種であるアストロサイトの増殖に影響を及ぼすこと発表しました.脳には神経活動すなわち意識を保ったり,痛みや寒さを感じたり,見たり聞いたり,手足を動かしたり,物を考えたり,記憶したりする機能があります.これらの脳の仕事はニューロンと呼ばれる神経細胞が行っています.そのような仕事をする神経細胞は我々の脳に1000億個以上あると言われており,それぞれの細胞から軸索や多くの樹状突起と呼ばれる長い突起物がでて他の神経細胞とシナプスという接合部でつながっています.シナプスでは突起の末端と神経細胞の間に非常に狭い間隙がありそこにシグナルを伝えるときに神経伝達物質が放出されます.セロトニンやアセチルコリン,GABA,あるいはドーパミンなどいろいろな伝達物質がありそれぞれ意味のあるシグナルを伝える仕組みです.その神経伝達物質を放出するシグナルを伝えるのは神経細胞が興奮して発する電気信号です.このようにして神経細胞は脳の中でネットワークを作っているのですね.この電気信号はショートするといけないので,お互いの神経細胞は幾分離れ離れに存在しています.また,シグナルが伝わる長い突起物はいわゆる電線にあたりますから,他の電線と混戦しないよう絶縁されなければなりません.この絶縁や距離を埋めるための細胞がグリアと呼ばれるものです.もともとニューロンと同じ細胞から分化したものですが,グリアはその他に神経細胞に栄養を支給したり,過剰なイオンや神経伝達物質を速やかに除去する働きがあり神経細胞の活動を支える重要な役目をしています.その代表的な細胞がアストロサイトと呼ばれる細胞です.ダウン症ではニューロンの数が少なく,突起によるネットワークもやや不十分である一方,アストロサイトは人一倍増殖することがわかってきました.ニューロンとアストロサイトの増殖のバランスが悪いのですね.その原因になるのがDYRK1Aという遺伝子の働きです.
 ダウン症は21番染色体が1本過剰にあるのが原因なのは皆さんご存知でしょう.ですが,まれに,21番染色体の一部分のみがトリソミーとなる人がいます.そのようなヒトのトリソミー部分にこそ,ダウン症の病態の本質に関わる遺伝子があると考えられ,部分トリソミーの人たちに見られる共通のトリソミー領域を解析する研究がなされてきました.私が天使病院に赴任してすぐのころに出会ったダウン症の赤ちゃんがまさにその部分トリソミーを持っていました.21番染色体の末端の1/4ほどを残しておよそ3/4に当たる部分がトリソミーでした.そのトリソミー部分の詳細な範囲を解析し,どんな遺伝子があるかという研究をしたところ,従来言われていたダウン症として最低限必要とされるトリソミー部分を大きく絞り込める成果が示されました.そこに存在する遺伝子の一つがDYRK1Aでした.2008年にこのことを発表いたしましたが,それから2010年代になって,この遺伝子のトリソミー効果が知的障害の原因になることが示唆され,動物実験でこの遺伝子の過剰発現を相殺する薬物が発見されたりしました.今回の北畠先生たちの研究はヒトのiPS細胞に遺伝子編集の技術を導入しこの遺伝子の過剰発現の効果を証明した画期的なものです.この研究の成果はダウン症の発達の遅れや知的障害,さらにはアルツハイマー病の合併と言った非常に重要な問題の原因に大きくせまり,治療の道を切り開くものと思います.今後の研究の進展に期待したと思います.


3 21トリソミーとISR


 ISRという言葉をご存知ですか?実は私も数年前まで知りませんでした.英語でintegrated stress response ですから統合的ストレス応答とでも訳しましょうか.生き物には様々なストレスが襲い掛かります.空腹になったり,感染症になったり,怪我をして失血して血液不足になったり,このような様々な「危機」に対する細胞の一般的な反応とされるのをISRといいます.具体的には,細胞は自らのタンパク合成を一律に抑制する一方,ストレスに対応するためのタンパク合成を行うというものです.人にはタンパク質をコードする遺伝子がおよそ2万個あるとされていますが,21番染色体にはそのうち230個ほどがあります.ダウン症の人では21番染色体が3本ありますから,この230個の遺伝子は1.5倍の量のたんぱく質を作ることになります.全体に占める割合では1%程度でしょうが,生体にとって,タンパク質の量のバランスが部分的に良くない状態となります.これがストレスになるという考え方がでてきました.先ほどのDYRK1Aという特定の遺伝子の効果がダウン症の症状に影響する一方で,何の遺伝子かは問わないが,多くの遺伝子が過剰にあるとそれだけで様々な病態を起こすという考えが支持されるようになってきたのです.この考え方をもとに治療にむすびつける方策が検討され始めています.


4 NIPTのこと


 NIPTすなわち新型出生前診断は妊娠中の女性の血液の中に含まれる胎児由来の微量のDNAを解析して,胎児に染色体異常症があるかどうか調べる方法です.わが国でも実施されて10年近くになります.高齢の妊婦に対して,常染色体の数の異常症を対象として行われてきましたが,陽性反応が出た場合には羊水検査で確定診断を受けるというのがルールで,このため専門的な情報提供と遺伝カウンセリングがなされなければなりません.ところが検査希望者の増加に対しきちんとした対応のできる医療機関は限られています.そんな中,専門外の医療施設で,この検査を実施するところが次々と現れ,妊婦の多くがこのような非専門的な施設で検査を受ける状況になってきました.私のところにも予想外の陽性反応がでて,どうしたらよいのか悩んで受診する方も見られるようになりました.専門的かつ倫理的な判断を必要とする検査が,十分な情報提供や意思決定の支援プロセスを経ることなく行われている現状は非常に憂慮すべきことと考えます.今後は対象となる妊婦の年齢制限が撤廃されますし,将来にはいろいろな疾患のNIPTによる診断が可能となってきます.どの疾患は対象とすべきで,どの疾患は検査すべきでないか決めることは不可能です.社会正義や倫理基準というものはこの問題に関して明確な答えを用意していません.だからこそ,個々の事例に対し,誤った情報に基づいて判断することがないよう,苦痛や不安を解消できるよう,そして当事者の意思や考え方が尊重されるやり方で意思決定をサポートすることが必要となります.前述した研究の進歩により,胎児への治療が可能となる時代が来れば,出生前診断の意義は180度変わることになります.そうなることを夢見て,今は不幸な決断がなされないよう専門的に支援するよう努力していきたいと思っています.


参考文献
1. ダウン症児の脳の性状発達をみだす遺伝子を発見.
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210614_1
2. Sato D, Kawara H, Shimokawa O, Harada N, Tonoki H, Takahashi N, Imai Y, Kimura H, Matsumot N, Ariga T, Niikawa N, Yoshiura K (2008)  A Down syndrome girl with partial trisomy for 21 pter-q22.13: A clue to narrow the Down syndrome critical region. Am J Med Genet A. 146:124-7.

分会からの報告//こばと会の分会の活動をご紹介致します。

釧路分会からの報告

FMくしろ出演報告


 FMくしろの3月18日(金)の朝8時5分から放送の「難病連だより」に、標茶町在住の伊藤ご夫妻が出演してくれました。パーソナリティの佐藤さんと伊藤ご夫妻との心あたたまるやり取りの中で、ダウン症について、北海道小鳩会の普段の活動紹介、コロナ禍では会報誌を通じて情報交換したりホームページやYouTubeを活用したりしていること、会に入って嬉しかったこと、伊藤さんのお子さんの様子や子育ての悩みとこれから始まる新生活について、ダウン症デーについての紹介等、短い時間ではありましたが、話題てんこ盛りの内容となっておりました!聞いているこちら側も思わずクスッとしてしまったり、ホロリとしてしまったり…十分間があっという間に過ぎてしまう、聞き応えのある放送でした!聞いていて、私もひとりじゃないんだ、仲間がいるんだ!と改めて思いました。


 お忙しい中ご協力いただきました、伊藤ご夫妻に感謝です!ありがとうございました。

(報告 直里純子)

北見分会からの報告

世界ダウン症の日について


 3月15日〜29日まで、北見市立中央図書館にて、ダウン症関連の書籍の展示を行いました。毎年、展示をして頂いています。
 来年も、啓発活動を行っていきたいです。

(報告 八巻ひとみ)

札幌分会からの報告

ZOOM 歯科講演会


 3月21日、ZOOMで歯科講演会を行いました。前半は乳幼児期、後半は学齢期・青年期・成人期に分けて各1時間の講演会としました。延べ18家族の参加でした。


 ダウン症児・者の歯科的特徴、歯の健康管理、実際の歯磨き指導等スライド等を使って、説明いただきました。


 後半の時間では、ダウン症のある本人・兄弟等も一緒に参加し、歯磨き指導、ほっぺたを膨らませる等の口腔機能訓練を楽しく実施しました。


 ちょうどこの日は、『世界ダウン症の日』でもあり、画面越しですが、皆さんの素敵な笑顔が見られ、とっても嬉しかったです。


 三好歯科クリニックの三好雅樹先生、本当にありがとうございました。

(報告 三好明子)

みんなの広場//こばと会に寄せられるみなさんのお便りをご紹介致します。

🌸 卒業おめでとう 🌸
中川郡幕別町 I 麻里子さん(凛さん (中学1年生))

小学校6年間


 お世話になった小学校6年間の卒業式、入学式の日を想い出し小さくて先生に支えられて入場したあの日から、先生方にサポートして頂きひらがなの練習や発表会では劇のセリフも役になりきって張り切る姿や、修学旅行ではテンションMAXで楽しみ等‥成長をしみじみ感じ感謝の気持ちで一杯でした。

 これから、地元の中学校の支援級に通います。「中学校楽しみ」と制服も嬉しくて、女の子だなと感じます。これからも、楽しく元気に過ごして欲しいです。

河東郡士幌町 G 幸恵さん(遥愛さん(18歳))・河東郡音更町 N 太陽さん(18歳)

高校卒業、新しい生活へ


 高校生から始まった寄宿舎生活も3月で終わり、高校卒業となりました!


 先生やスタッフの皆さんのお陰で帰りたいということもなく楽しく過ごした3年間でした!


 4月からは陸別のみどりの園での新しい生活がスタートしています


 コロナ禍の中、面会も帰省もいつできるかわからない状況です。


 『施設に早く慣れてくれると良いな』と思っています。

久遠郡せたな町 K 志都美さん(笑里香さん(18歳))

頑張り屋さんの笑里香へ


 18年前、娘が産まれたとき「ダウン症かも知れない」といわれ、まさか自分が障がい者の親になるなんてと毎日泣いていた最低な母親でした。せっかく産まれてきてくれたのに、なんで泣いているんだろうと、娘に申し訳ない気持ちでいっぱいになり、毎日笑って過ごせるように、笑里香と名付けました。糖尿病や甲状腺の病気もあり、保育所入所から色々ありましたが、たくさんの人達に出逢い助けていただき、無事に高校を卒業することができました。笑里香がいなければこれだけの人達に出逢うことはなかったと思います。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。卒業後は、“ふれんど”で働きますが、これから出逢う人達にも感謝の気持ちを忘れずに頑張って欲しいと思います。


 笑里香、失敗してもどんまい、ファイトだよ。家族みんなで応援しています。

🌸 入学おめでとう 🌸
札幌市中央区 S 奈穂さん(永麻さん(小学1年))

小学部入学


  早いもので、もう7才。支援学校小学部に入学しました。


 入学式の日は式会場や教室では不安でいっぱい、母にしがみついていましたが、写真を撮る時はこの笑顔でした。親の心配をよそに嫌がることなく登校し、少しずつ慣れてきているところです。


 今まで娘を支援して下さっていた方達がとても優しく、新しい環境に馴染む土台ができていたのだと思います。


 学校でもひょうきんさを披露できる日が来るのが楽しみです。

釧路市 S 優子さん(莉々花さん(中学1年生))

張り切って徒歩通学


 釧路市立鳥取中学校に入学しました。体重増加でお腹を引っ込ませながら毎朝、制服のスカートを履く姿に吹き出してしまいます(笑)学校楽しい!と張り切って徒歩で通っています。

札幌市清田区 S ゆかりさん(健斗さん(中学1年生))

担任の先生は・・・


 今年4月7日、無事に中学校の入学式を迎える事ができました。


 生まれた時から大きな合併症もなく、元気にスクスクと育ちました。スクスク育った身体に大きめの制服を着て写真の本人は大満足の笑顔です。
ただ、今は制服のワイシャツに悪戦苦闘。ワイシャツのボタンをかけられただけで親子で大喜びの毎日です。


 ちなみに、本人いわく「担任の先生は、小峠」との事。ひと波瀾ありそうな中学校生活、一先ず無事にスタートしました。

釧路市 H 真奈美さん(元気さん(中学1年生))

勉強いっぱい頑張ります


 釧路養護学校中学部に入学しました。


 勉強いっぱい頑張ります。・・・と本人は言っていますが期待して三年間学生服を来て学校に通って欲しいと思う母です。

苫小牧市 K 郁美さん(理央さん(26歳))

ショートステイが楽しみ


 妙なウイルスが出現して約2年半、すぐにマスクを取り外し、ぶん投げてしまう理央は、好きな外食、野球観戦、アウトレットモールなど行けずに過ごしています。唯一の楽しみは、通所している所でのショートステイです。お泊まりの着替えを鞄に詰めているのをニヤニヤして見ています。この写真は、マスクをつけている一瞬を撮しました。

苫小牧市 S 喜和江さん(俊彰さん(26歳))

親子で腕立て伏せ


 我が家の末っ子の俊彰も26歳になりました!


 コロナで作業所(ワークランドのぞみ)、私の実家(厚真で農家してます)以外出かけることできないのもあり体重が⁉️なので、家では掃除機がけ、夜はお父さんと腹筋、腕立て伏せ(出来ませんが)やってます❗
早くコロナが落ち着いて自由に出かけられること願うばかりです❗

阿寒郡鶴居村 S 里純子さん(ちなつさん(中学1年生))

手作りドレスです


 子供の作品です。
コンサート用手作り紙ドレスです。
6年生の3月に制作しました。

その他記事

世界ダウン症の日 2021年度の啓発活動 報告

 北海道小鳩会では、新型コロナウイルス感染が広がる前に、例年開催してきた世界ダウン症の日に合わせての札幌地下歩行空間での啓発活動は、2021年度も新型コロナ感染予防の観点から残念ながら中止としましたが、下記の啓発活動に取り組みました。


★啓発動画の配信


 『世界ダウン症の日』の3月21日、北海道小鳩会チャンネルで啓発動画の配信をしました。配信初日からたくさんの方に見ていただきました。
 このコロナ禍での有意義な啓発活動となりました。
 まだ、ご覧になっていない方は、ぜひご覧ください!!


★一般社団法人札幌市手をつなぐ育成会

 元気ショップ“いこ~る“にて、世界ダウン症の日に合わせて、昨年度に引き続きポスターの掲示、啓発ボールペンの販売をしていただきました。北海道小鳩会としては貴重な啓発活動の機会となりました。


 札幌市手をつなぐ育成会様、素敵な啓発活動の機会をありがとうございました。


★ポスターの掲示のご協力、ありがとうございました。


 ポスターの掲示は、年間を通じての啓発活動となります。
 ポスターを掲示している様子の写真、ポスター掲示のご協力をお願いできます時には、ご連絡よろしくお願いいたします。

このページの先頭へ